吉永は、困ったような、はにかんだような、曖昧な笑顔でうなずいた。

「似てる、なんてもんちゃうな。……そうか……。元気なら、よかった……。」


……この表情……?

……もしかして……ママのこと……?


あけりは、無意識にもらった名刺を持つ手に力を込めた。


吉永は、確かにママの通っていた学園の教諭のようだ。

ママは……17歳で私を出産した……。

学歴は、高校中退。

ママのその頃を知っている?

……このヒトに聞けば、ママのつき合っていたヒト……たぶん私の父親に当たるヒトが、わかるだろうか……。





「……拓也さん?お勤めは終わらはったん?……お客さんですか?」

廊下の向こうからそんな声が近づいて来た。

「あ。いや。まだ……なんやけど……ちょっと、具合悪うならはった子ぉがいて……。」

慌てて、吉永がそう言いながら、あかりと薫に家に上がるように手でゼスチャーした。

「……生徒さんですか?そんな、いつまでも玄関先に居てんと、早ぉ上がってもらいよし。……お布団敷きましょか?」

そう言いながら姿を現したのは、いかにも奥さま然とした女性だった。

白髪の髪をきっちりと結い上げて、落ち着いた色合いの紬の着物をしゃっきりと着こなして立っている。

かつては美人だったのだろう。

今も、一見きつそうな……でも愛情深そうな、上品な初老の京女(きょうおんな)だ。


あけりは、薫の手からするりと身を交わして、挨拶をした。

「お騒がせしてしまって、申し訳ありません。あの……すぐに失礼しますので。」

吉永の言葉に甘えてのこのこついてきてしまったけれど、さすがにこの臈長けたおばあさんに布団を敷かせるわけにはいかない。

こちらの吉永さんが、部長の彼氏のお身内で、しかも母の学校の教諭だというなら、なおさらご迷惑をかけられない。


でも、吉永の母親は顔を上げたあけりを一瞥するなり、表情を変えた。

「まあ……あなた……」

「?」

よくわからないままに、あけりと吉永の祖母はまじまじと見つめ合う形となった。



……似てる……この2人……何となく……似てる気がする……。

薫は、思わず生唾を飲み込んだ。



「……はは……。」

吉永がかすかに笑った。