あけりは、ちょっと笑った。

「……うん。ダサかったし、丸かった。今は、牛蒡みたいにほっそくて、派手だったわよ。」

「2人とも失礼ねえ。……外で言わんといてや。」

母にたしなめられて、継父とあけりは肩をすくめてほほ笑み合った。




翌週、水島薫は松山競輪場の開設周年記念レースに出走した。

あけりは自室のインターネットで観戦した。


初日の薫は、師匠の泉勝利と一緒に最終レースを走った。

12レース中ラスト3箇レースは、負けても、翌日からの勝ち上がりに関係ない特選レースだ。

薫は、自分が勝つためではなく、師匠を勝たせるために……それから、自分の脚の調子を見るために、9人の先頭を疾走した。

最終周回バックストレッチで関東ラインが捲ってくる。

いつもラフプレーが多く、事故点と呼ばれる減点をたくさん持っている泉は、後ろからやってきた関東ラインを邪魔することもなく、素通りさせてしまった。

その結果、師匠の泉は関東ライン3人のすぐ後ろから、ゴール前で1車差しての3着。

薫は、力尽きて、もう1つの中部ラインにもどんどん抜かされてしまっての、8着。

ゴール後、飄々と周回する泉と、頭をぐったりと下げて肩で息をしている薫は、対照的だった。

着順だけみれば、薫の着はよくはない。

でも、師匠を3着に押し上げた競走に、あけりは感動した。


……清々しいまでの行きっぷりだわ。

水島さんって、やっぱりイイヒト!


2日めの二次予選、薫は別地区の選手を連れて捲りを決めた。

3日めは、再び師匠の泉を連れて早めに捲り切ると、ゴール前で泉に差されて、師弟コンビでのワンツーフィニッシュ。

最終日の決勝戦は、他地区のラインの若手先行選手のかまし先行に追いつくことができず……泉が5着、薫は4着で終わった。


今までも、2人のレースは欠かさず観ていたが……今までとは違う高揚感をあけりは感じていた。

ずっと気持ちいい競走をすると好意的に観ていた薫との思わぬ邂逅が、あけりをこれまで以上に夢中にさせた。

……サインでももらえばよかったかしら。

あけりは暢気にそんなことを考えていた。