センリと出会う前、わたしには婚約を前提にお付き合いをしている人がいた。


特段かっこいい訳ではないけれど、いつも笑顔でわたしの事を何よりも大事にしてくれた人。


そんな人だと思っていた。


あの雨が降っていた日、


『ごめん、沙和。別れてくれ』


わたしは捨てられた。


『なん、で?』


頭が追いつかなくて、心が理解できなくて、ようやく絞り出された言葉はその一言。


『俺、ほかに彼女がいるんだ。でも沙和のこと好きになって別れようと思ったけど、そのことで彼女体調崩して…俺にとって必要なのは彼女の方だって目が覚めた』


つまりわたしは浮気相手だったんだ。


見知らぬ彼女との天秤にかけられて、知らない間に弾かれただけのことだった。


もう何も考えられない。


ごめん、とまた一言だけ呟いてカレはわたしの前から消えていった。


そしてその帰り道に出会ったのがセンリだった。