自分が雨に打たれて待つことよりも。
風邪をひいてしまうかもしれないことよりも。
寝坊して遅刻している私のことを考えてくれていたなんて。
そんなの、怒れるわけないじゃない。
「…ごめんなさい、正人さん」
「真央は?寒くない?大丈夫?」
「私はここまで走ってきたから、全然寒くない‼正人さんこそ、早く車に行って暖かくしなきゃ」
「俺は男だし、大人だから大丈夫」
「お仕事に行けなくなってしまったらもともこもないでしょ?」
「それは、確かに」
苦笑いする正人さんに、私も苦笑いを返し、「はい」と差し出された冷たく冷えてしまった手を取って歩き始めた。
車に乗り込んですぐに、私は持っていたハンカチで正人さんの髪の毛、顔、腕を拭いた。
でも服はびしょびしょのまま。
「真央、一回家に帰ってもいいか?」
「もちろんですよ‼」
ごめんな、と言いながら車を走らせ、正人さんの家に向かった。
車中で時々鼻をすすりながら「ごめんな、真央。本当は水族館に行こうと思ってたのに、今日はちょっと厳しいかもしれない」なんて謝る正人さん。
そんなことどうでもいいのに、私の心配ばかりして。
本当に、本当に…。
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「正人さんと付き合ってて、本当に幸せすぎる…‼」
「はいはい、真央、落ち着いて」
「俺トイレ行ってくる」
「はいはーい」
「りょーうー‼」
「真央は鼻水拭いてミシンの準備」
直後、授業開始を告げるチャイムが鳴り、涼香は自分のミシン台に戻って行った。