「課長、好きです、とか」

 そんな恥ずかしい。

「付き合いたいです、とか」

 それも照れるな。

「キスしてください、とか」

「あ、それは、もう大丈夫です」
とうっかり言ってしまって、

「なんなの、それーっ」
と叫ばれる。

「そうなのっ?
 そこまでしといて、なんで話が進んでないのっ?

 課長、実はチャラいの?
 遊び人なのっ?」

「あ、亜紀さん、声、もれますっ、声っ」
と遥はドアの向こうを窺う。

 案の定、誰かがノックしてくる。

「どうかしたのかね?
 大丈夫かね?」

 うっ、うちの部長だ。

 慌てて遥はドアを開けた。

 給湯室のドアが閉まっていたので、心配して、ノックしてくれたようだ。

 一体、過去になにが……、と思ったあとで、亜紀の話を思い出していると、亜紀が案の定、
「大丈夫です。
 なにもしてませんよ」
と冷ややかに部長に言っていた。