その事実に、章が気を悪くするとわかっていながらも、笑いがこみ上げてきておなかを抱える。
軽やかに、声を上げて、涙のにじんだ瞳を臆することなく彼へと向けた。
「章はあれだ、似合う似合わないにこだわりすぎだね」
あっけらかんと告げてしまえば、彼は息をつまらせる。
そして口の中でいくつも文句を転がしている。
そのうちのひとつをぶつけられた。
「気にしないお前がすごいだけだよ」
「そう?」
だって、他の誰かのなにが問題だと言うの?
必要なもの、好きなもの、たくさんのなにかや出来事。
自分を取り囲むそれらを選ばないで、自分を守らないでどうするの。
確かに生きていく上で、人を無視することはできない。
意見を聞いて、取り入れて、そうやって日々は進む。
だけどそれは全てじゃないよ。
周りの評価ばかり大切にしなくちゃいけないなんて、そんなのおかしい。
そうじゃなくて、まずはじめに気にかけるべきなのは、他でもない自分だ。
血が流れて、鼓動を打つ身体のまんなか……心こそが、なによりも大切だとあたしは思う。
笑ってそう告げて、あたしはまた机の上の恋文参考書に手を伸ばす。
乾いた音を立てて、ページをめくる。
すると恋文参考書から、半分にたたまれている1枚のルーズリーフがひらりと舞い落ちた。