章はすっかり忘れていた、その約束。
思い出したのはずいぶん前のように感じるけど、まだほんの少ししか時間は経過していない。
そのことを引きあいに出されると強く言えないのか、章は言葉をつまらせている。
そして諦めたように深く息を吐き出した。
「別に、突然思い立ったわけじゃねぇ。
告白は薫が中学生の頃からしようと思っていた」
「そうなの? そのわりには行動に移すの遅くない?」
だって今現在、章は2年生で薫先輩は3年生。
ふたりともすっかり高校生になってしまっている。
その上12月とくれば、薫先輩の卒業も近づいている。
どうしてここまで時間が経過してしまったの?
「……言えなかったんだ」
想いを告げること、どれだけ大切なのかということ。
心は見せることはできず、すべて言葉にしなくちゃいけない。
それはなかなか素直になれない章にはとてつもなく難しいことだったんだろう。
その姿がまぶたに浮かぶようだ。
「だけど、卒業するまでにしなくちゃいけないから」
「どういうこと?」
「卒業したら、薫は家を出る。
ひとり暮らしをはじめて……そばからいなくなるんだ」