「あんなことが目の前であって、訊くことがないなんて、冷めてるな」
ひどい言葉。
わざと傷つけるような、鋭いものを選んで。
それで彼自身が誰よりも傷ついているんだから……、やるせない。
違う。
違うんだよ。
あたしはただ、────君のことを信じているだけだ。
きつい言い方をして、言われた方が悲しくなるようなことを口にして、それで平気な人じゃない。
そのことをあたしはよく知っている。
そう告げることはかんたんだけど、わざわざ選ぶことはない。
自分の言葉であたしがどのような様子になっているか、章が心配していることが察せられる。
そんな彼を安心させるように、あたしは緩く笑みを浮かべてみせた。
そして関係のない話を彼に振る。
「じゃあ質問。
どうして章は薫先輩に告白することを決意したの?」
章があたしに相談を持ちかけなければ、あたしにきっかけや理由について問われることもなかった。
こうやって今ここで困るようなことも、なかった。
それなのに決意したのは、それを人に言うというリスクを背負ったのはどうしてなんだろう。
ふいに浮かんだ疑問を素直にそのまま口にした。
章の顔を下から少し見上げる。
顔をぐしゃぐしゃにしかめて、苦々しげに言葉を吐き出す。
「誰が言うか!」
「言ってよ」
関係ない、と言い募ろうとする章の袖を緩くつまんだ。
そっと柔らかに、それでいて少しだけいたずらっぽく頰を上げる。
「原稿のネタにさせてくれる約束でしょう?」