あれから、しばらく薫先輩と戸川の3人で事後処理にいそしんだ。
倒れたごみ箱を戻し、こぼれ落ちたごみを回収する。
周りの人に散らばってもらい、一呼吸吐いたところで、あたしはふたりに言ってその場を離れた。
廊下の隅を黙々と足を運ばせ、本館の校舎を出る。
中庭から上履きで歩くことが許されているロータリーのアスファルトを踏みしめた先、別館の孤立した校舎。
古びたつくりの壁を見て、深呼吸をひとつ。
今日は2度目となる重たい扉をそっとくぐり、中にすべりこむ。
さっきより影が深くなったように思う床の上を、迷うことなく進んで行く。
本を避けるようにまっすぐ、まっすぐ。
そして奥の慣れた空間。
机と椅子がいくつも並ぶそこの、いつもの席に腰をおろした。
章の、隣に。
そばにある大きな窓から外を眺めている章の襟足を視線でくすぐる。
揺れることのない金髪が光を吸いこんで、影の部分が鈍い色に染まっている。
「薫先輩たちになにがあったのか訊かれたけど、大丈夫とだけ言っておいたよ」
きっとあの場を立ち去った章が1番気にしていたであろう、残されたあたしたちのこと。
なにより薫先輩のことを短く説明する。
まるで章のような端的な言葉だけで口を閉じたあたしは、近くの本棚の背表紙を視界に入れていた。