廊下を進みながらも、周りの空気がいやで仕方がないんだろう。

章はパーカーの上に羽織っているブレザーのポケットに両手を入れ、あたしの存在に気づいていながらも歩調を緩めることはない。



放課後に手紙を書く練習をしているから、帰りが一緒になることが多いけど、こんなに早足で通学路を通ったことはない。

ツン、と冷たい様子なのに、いつもは気を遣ってくれていたんだと実感する。



そんな優しい彼が傷ついているのに放っておくことなんてできない。



駆け足でついて行く中、あたしか周りのどちらかが鬱陶しかったのか。

それとも上野先生への怒りが冷めないからなのか。

近くのごみ箱を蹴り上げる。



倒れたごみ箱へ駆け寄ると、そばにある階段から章の名前を呼ぶ声がする。



「なにをしているの……⁈」



顔を上げた先。

章の向かうには、珍しく汗をかいている戸川と黒髪を揺らし駆け寄ってくる薫先輩の姿があった。



「章が揉めているって和葉が呼びに来てくれたのよ」



どうして、と問いかけるより先に理由を告げられる。

納得はすれど、薫先輩がここにいることはいいことなんだろうか。

心が揺らいで、不安定な章にとっては彼女がいてくれた方がいいのか。

今までこんな場面に立ち会ったことは1度もないあたしにはよくわからない。



だけど薫先輩を見つけた瞬間の章は息を呑み、子どものように一瞬だけ表情を歪ませた。

そのことがあたしの心臓をひやりと冷たくするような感覚がした。