上野先生が一方的になにかを言っている間はいつものことだからと周りが注目することはない。
廊下の隅だし人通りも少なかった。
だけど今は章が上野先生の胸倉を掴むという目立つ行為をしてしまった。
視線はあっという間に集中していて、すっかり大きな騒ぎになっている。
ブチ切れている章に近寄る勇気はないらしく、遠巻きだとはいえ、少ないとは言えない人数。
ヤンキーとしてうちの高校では有名だったこともあって、こそこそとしたささやきが聞こえてくる。
相手が上野先生だから章だけが悪くないことはみんなわかっているけど。
それでも「あそこまでする?」や「こわい」といった声が耳に届き、やるせない気持ちになった。
章はなにをしてもいい顔をされない。
そのことがやっぱり悔しいよ。
近くにいるあたしと上野先生にだけ聞こえるような小さな音量の舌打ちが響く。
上野先生の胸を押すようにして手を離した章は振り返ることなくその場を離れる。
生徒が慌てて彼を避けたことでできた道を歩いて行く。
少し驚いたように動揺したように瞳を揺らす上野先生にあたしは1度だけ視線をやり、章の後を追った。