聞くに耐えないような説教は制服のことからずいぶんと違う話へと移行している。
あたしよりずっと苛ついているはずの章はどんな表情をしているんだろう。
うつむいたままのあたしにはちっともわからないけど、きっと必死でこらえている。
上野先生は相手にするには、たちが悪いと北冠の生徒はよく知っているから。
それなのに、上野先生は触れてはいけないところに口を出した。
「そういえば金井は菅沢の幼馴染らしいな」
はっと顔を上げる。
薫先輩たち3人が幼馴染ということは隠しているわけじゃないけど、ほとんどの人が知らないことのはず。
ただでさえ親しい生徒なんて少ない上野先生がどうして知っているの?
「今年の春頃、菅沢が準備室まで質問しに来た際に言っていたよ。
幼馴染が入学したんだと」
「薫が……」
そっか、薫先輩は推薦で大学受験を済ませてしまうほど頭がいいもん。
上野先生が気に入っている数少ない生徒のうちのひとりだったんだ。
世間話の一環で章たちのことを口にする彼女の姿が目に浮かぶ。
同級生には言わずとも、成績が不安な章のことを気にかけてもらえないかと話題にあげたんだろう。
「菅沢が『いい子』だと言うから、どれほど成績上位者かと思えば……」
上野先生がふっと鼻で笑うように息をもらす。
「菅沢は頭がよくても人を見る目はあてにならないな」
それはあまりにもひどい、嘲笑の含まれた言葉だった。