しばらく本の話の流れで自分の小説についての話をした。
過去に書いてきた作品のこと、今回の部誌の作品のこと。
そしてそのまま、手紙を書くためじゃなく原稿の参考にするために、章のことを訊いた。
それが気恥ずかしかったのか、それともいまだモデルにされることを思い出した衝撃が薄れないのか。
どっちなのかは知らないけど、呆然としたままの章はとうとう図書室から逃げ出した。
今日はまともに手紙を書いていなかったし、まぁいいかと思いあたしも後を追っていた。
すると普段使っている本館の廊下に戻って来たところで、いやな人の姿を見かける。
「おい、金井」
それは、陰険で厳しくて、生徒だけでなく教師も口をそろえて苦手だと言う教師。
数学担当の上野先生だった。
低い声で呼びとめられて、章がその場で立ちどまる。
黙りこんだままの様子は無愛想で、態度は悪いけど、それでもちゃんとここにいるだけましだと思う。
今の章は気持ちが不安定なところがあるし、無視してしまう可能性だってあったもん。
「制服はちゃんと着ろ。
なんだその着こなしは……だらしない」
言い方はむかつくところもあるけど、なにも間違ったことは言っていない。
章のトレードマークのような黒いパーカーは校則違反だし、金髪もピアスも許されていない。
章はどう対応するのかなぁ、なんてあたしが少し呑気に構えていると、上野先生はわざとらしいため息を吐き出す。