なぜかざわめく心を隠すように、声を弾ませ彼へと投げかけた。
「じゃあ、章と薫先輩を元に書いた話も楽しみにしててね!」
「は……?」
優しい雰囲気が崩れ、こちらを向いた表情が「意味わかんねぇ」と告げている。
まさか、と思いつつあたしは手にしていた部誌を机の上に戻した。
背筋をぴんと伸ばし、両手を膝の上に置く。
「もしかして忘れてる?
ふたりの恋を書く約束だったじゃない?」
『金井と薫先輩の恋を元に小説を書かせてくれるなら、手伝う』
あたしのその提案を章は了承した。
あたしたちの関係はそうしてはじまったものだった。
そのことを忘れてもらっては困る。
「ああ……」
どうやら本気で忘れていたらしい。
章は眉をひそめて、頬杖をつくことをやめて深く背もたれに体重をかけた。
ふたりのことを聞いている時にメモなんか取っていなかったし、まるで参考にする話はなくなったかのように見えていたのかなぁ。
これでもちゃんと使えそうな話はネタとしていただくつもりでいたんだけどね。
まぁ、いいや。
無事に思い出してもらえたようだし、あたしは遠慮なくネタを収集させてもらうだけだ。