「なんで隠すの?
読書が好きって最高なのに!」
「最高か……?」
「うん!」
力強く頷いてみせれば、誤魔化すように挙動不審な態度や動きをしていた章がまっすぐあたしを見つめる。
真剣な表情を不思議に思いつつも、いつもどおり隣の席に腰を下ろす。
章が、はあっと息を吐き出す。
今はまだ白く染まるほどの気温じゃないけど、もうすぐきっとそれくらい寒くなる。
そんなことをぼんやりと考えていれば、章は別のことを思い浮かべていたらしい。
ため息のように言葉がふわりと浮かび上がった。
「お前は、本なんて似合わないって言わないんだな」
柄じゃない。
らしくない。
違和感、変な気分、薄い笑み。
身に覚えのあることで、日常的に見かけるもの。
だけど、そういうのってあたし、嫌いだなぁ。
「似合わないなんて、言わないよ」
そう返し、恋文参考書の下の部誌を手にする。
ぱらりとページをめくって、目次。
ふみの恋物語に、一条の純文学、詩乃の優しい言葉のあとに他の部員の作品が続き、最後は自分の物語。
みんなで苦労して作り上げた1冊は大切で、愛おしい。
だけど大変だったからということだけが、それだけが理由なわけじゃない。
「好きなものを否定する権利なんて誰にもない。
それに、なにかを好きだと思うことは、それだけで素敵だよ」