「待て、」



章の制止は間にあわず、あたしの視線の先。

恋文参考書の下からはみ出ているもの。

それが驚くほど見慣れたものだったことに、あたしは目を大きく見開いた。



「これってうちの部誌……?」



それは北冠高校文芸部、年に5回発行している部誌の最新号だった。



薄いピンクの表紙に、全60ページの冊子には6人分の原稿がまとめられている。

自分たちが描いた物語を、自分たちで誤字のチェックをして、印刷し綴じる。

面倒な行程も多い分、思い入れのある大切なものなんだ。



それをまさか、章が持っているなんて。



「えー、なになに⁈
うちの部誌読んでくれているの⁈」



章は現国も古典も苦手みたいだし、本なんて読んでいるところを1度だって見かけたことがなかった。

読書のイメージはまったくないし、勝手に好きじゃないんだろうとまで思っていた。



だけど違った。

わざわざ拙いはずのあたしたちの世界に手を伸ばしてくれた。

そのことがとても、とても、



「嬉しい!」



にっこりと笑う。

立っているあたしの隣で、座ったままの章は顔を真っ赤にしている。



「本、好きなんだ?」

「ん……。まぁ、隠してた、けど」



ここまでばれてしまったら仕方がない、といったふうにぽつぽつと言葉をこぼす。

気まずげに視線はゆらゆらと揺らぎ、そんな様子を見ることさえも嬉しい。