「あいつはさ、おれから見ているとどうしようもないばかなんだ」
突然の暴言。
だけどまぁ、わからなくもない。
勉強を教えている身としてはよく留年せずに2年生になれたなぁという感想が頭に浮かぶ。
赤点地獄で辛いだろうに、勉強しないとか本当にばかとしか思えないよ。
それに対して戸川はどの科目もそれなりにいい成績を保っているらしい。
本人いわく頭が悪かったら格好つかないでしょう? とのことだ。
チャラ男ってすごい。
「章は授業中とか寝ていること多いもんね」
「いや、そういう意味じゃないよ」
「あれ?」
彩ちゃんって意外と抜けているよね、と戸川は楽しそうだけど、あたしはちっとも面白くないよ。
なんなんだ……とじっとりとした視線を向けてもただただ笑顔を向けられるだけ。
読めない男だなぁと思う。
「章のばかなところはね、自分の気持ちをうまく表現できないところ。
そして、自分の気持ちがわからないところだよ」
「そう? そんなにわかってないっけ?」
あいつの気持ちは単純でわかりやすいと思うんだけどなぁ。
少しの親しい人と薫先輩。
あいつの頭の中はそれだけでしょう?
「鈍感なところは、彩ちゃんもおんなじみたいだね」
失礼なことを言われているとわかっているのに、詩乃たちの分まで飲みものを購入した戸川に促され、反論できないまま足を動かす。
戸川にはなにがわかっているんだろう。
あたしと、章のなにが。
彼のふわふわの髪を見上げるも、答えは見つかりそうになかった。