自販機の前に立った戸川が「なににする?」と訊いてくる。
本来ならなにもないのに奢らせるなんてできない。
でもこいつ、あたしのこと巻きこんできたしなぁ……。
よし、ここは奢ってもらおう。
「じゃあホットココアで」
「オッケー」
ちゃりん、と小銭を入れる音がする中、さて、と戸川が話を切り出した。
目的があったことに驚いたあたしは、その内容にさらに驚くことになる。
「彩ちゃんは章のこと、どう思ってる?」
「えっと、金井……。あ、章」
「ふ、なんでフルネーム?」
下の名前で呼ぶのに慣れてないからとっさに出ないんだよ!
からかわれたこと軽くむくれた顔を見て、戸川は「ごめん、可愛くてつい」だとか言っている。
これはもう気にした方が負けだ。
彼の流し目には気づかないふりをして、さっきの問いかけに答えを返す。
「章のことはなんとも思ってないよ」
口が悪くて、見た目もちょっとこわくて、ツンデレなヤンキー。
嫌いじゃないけど特別なわけじゃない。
そっか、と笑った戸川にココアを手渡される。
それは掌があついくらいで、わわっと少し焦ってしまった。