人差し指で涙をすくい上げ、戸川はこてんと首を傾げる。
やけに可愛らしい仕草だけど戸川にはなんだか似合っていた。
「薫に散々言われてるじゃん。
章はもっと勉強しなよって。
心配かけてるうちは今のポジションから抜け出せないよね〜」
あっけらかんと言ってみせる彼の言葉も、あたしが金井に向けたものと同じくなかなか突き刺さるものがあるんだろう。
金井はもう一言だって言葉をもらさない。
詩乃も空気を読んでいるのか声を発さず、話しているのはあたしと戸川だけだ。
少し金井が可哀想になってきたあたしはココアにとけるマシュマロのような、優しい声を出した。
「でも、金井は今の関係は変えるんでしょう?」
手紙の練習をして、ラブレターを書いて、そして薫先輩に想いを告げる。
そのためにあたしたちは時間を共にするようになったんだもん。
それは絶対に達成する目標で、尊い願いだ。
「……わかんねぇとこ全部訊くからな」
すねたような表情をした金井に頷いてみせる。
「任せなさーい!
あたしも戸川も、詩乃だってそのためにいるんだから!」
ね! と戸川と視線を交わし、詩乃へ笑顔を向けると……
「あれ?」
詩乃はこっちを向いていないどころか黙々と試験対策のプリントを解いていた。
名前を呼べばなに? と顔を上げてくれたけど、これは一切話を聞いていなかったな。
空気を読んで黙っていたと思っていた詩乃は、どうやらあたしたちを完全に無視していただけらしい。
なんだそれ……とあたしは脱力し、少しだけ笑えた。