「……好きなんだ」



前置きもなくぽつりと落とされた言葉は波紋のように教室内に伝わって、広がる。

小さいつぶやきが空気を震わせて、指先までじんじんとしびれた。



ああ、本当に告白だったなんて。



でもどうしよう。

誰かと付き合うなんて、17年間生きてきた中で1度も考えたことないのに!



なんと返事をすればいいかわからず、あわあわと唇を震わせた。

それなのにその反応を気にとめることなく、彼は話を続ける。



「幼馴染のあいつのことが、好きなんだ」



へ? と空気が漏れるように、間抜けな声が出る。



幼馴染……それは金井がいつも一緒にいる、戸川 和葉(とがわ かずは)のことのはず。



戸川も金井と同じように目立つ存在だし、クラスメートだからよく知っている。

どちらかと言うと戸川が金井にまとわりついているような印象だったんだけど、金井のほうが好きだったなんて。



というか、それより問題なのは、戸川が男だということだよ。

それはもしかしてもしかするの……⁈



さっきとは違う意味でわななく唇を押さえる。

すると真剣な表情で、彼ははっきりと言った。



「だから、俺にラブレターの書き方、教えて欲しい」



あたしへの告白じゃない。

金井は男の戸川が好き。

ラブレターを書きたい。



……いやもう、なにそれ。

どういうことよ。



「えええっ?」



教室どころか廊下まで、あたしの困惑した声が響いていた。