部室で本のページをぺらりとめくる。
じっくりと読み、役に立ちそうだと思った内容は手元の恋文参考書に書き写す。
本当なら付箋を貼ると楽なんだけど、これは図書室で借りてきたものだから、返却するのが前提だしできないんだ。
手間だなぁと思いつつも、なんだかんだでいやじゃない。
その作業をはじめてからずいぶんと経った頃、あたしのひとつ前の席に座る相原 ふみ(あいはら ふみ)が不思議そうな声を出す。
「彩先輩、さっきからなにしてるんですか?」
首をこてんと傾げた彼女は文芸部の1年生、あたしの後輩。
編みこみハーフアップと女の子らしい髪型をしているふみは性格まで女の子らしい。
いつも恋愛ものの話を書いているとにかく可愛い子だ。
通路を挟んで彼女の隣にいるもうひとりの後輩……一条 要(いちじょう かなめ)とは大違い。
こいつは黒髪マッシュの線が細い美形だけど、とにかく愛想がない。
今だってあたしの方をちらりとも見やしない。
そんな一条を構うことがあたしは結構好きなんだけど、今日はそんな暇はないから放置だ。
さみしい? なんて訊いたら絶対に「ありえないです」って即答されるんだろうけど!