机の中の教科書をレモン色のリュックに詰めこむ。

ずっしりと重たくなったそれのチャックを閉めて、立ち上がった。

背負ったあとにずり上がったジャケットを戻すためにぴょんと1度飛びながら裾を引っ張る。



終礼も済んだ放課後、さぁ行こうと扉へ向かおうとした時。



「彩」



名前を呼ばれ、上げた足をその場に下ろした。



あたしを呼んだのは、胸下までのふたつ結びに赤縁眼鏡が似合う、文芸部部長の佐久間 詩乃(さくま しの)だ。

表情は乏しいけど、真面目なしっかり者で、適当に生きているあたしをいつも気にかけてくれる大好きな友だち。



去年も同じクラスだったんだけど、提出物とか試験範囲とか、いつも詩乃から教わっていた。

返しきれないほどの恩があるんだよね。



「なに? どうかした?」



首を傾げて尋ねると、「帰ろう」と言う。



「あー……」



部活がある日もない日も、あたしはいつも詩乃と一緒に帰っている。

電車も方面まで同じだし。

それなのに、すっかり言うのを忘れていた。



「ごめん、詩乃。
あたししばらく一緒に帰れない!」

「そうなの?」

「ついでに言うと部活も休みます!」

「うん?」