金井は思っていたより悪い人じゃないみたいだし、恐怖心はなくなった。
あたしの知らない気持ちを知ることは面白いし、今後の作品に繋げようなんて呑気に考える。
「とりあえずは明日の場所を考えておかないと」
少なくともまた誰かに遭遇するようなところは避けなくちゃ。
思えば教室なんてクラスの誰かがやって来る可能性が1番高いところだもんね。
むしろ昨日、一昨日と会わなかった方が奇跡かもしれない。
さすがに何度も恋文参考書のことを誤魔化すのはごめんだし、気づいてよかった。
それにしても、金井はいつ頃こっちに帰って来るつもりなんだろう。
薫先輩を連れて教室を出てからしばらく経ったけど、戻る気配はない。
恋文参考書の彼の文字をまじまじと見つめる。
薫先輩を送ってからでよかったのに、どうしてわざわざこんなところに書いたんだろう。
「手紙のつもり、なのかなぁ」
さっきあたしは彼に手紙を書く練習をしようって言った。
彼は視線で拒否を示しつつもなんだかんだで了承していたし、もしかしたらこれが手紙なのかもしれない。
……これじゃ結局、練習になんないよ。
書いたところも内容も、問題だらけじゃない。
そう思いながらもなんだか脱力してしまい、楽しくなってきた。
金井は正直ばかだけど、一生懸命なんだよね。
仕方がないから、もうしばらく戻って来るまでに時間がかかっても許してやろう。
あたしは金井の顔を思い出して、くすりと笑った。
彼の言葉の下に『了解!』と小さく書きこんだ。