ピンポーン、と玄関から音がする。
なにかを答えるよりも先に、聞き慣れた声が俺の名前を呼んだ。
「次の新刊、届いたよ!
持って来たから入れて〜!」
約束の時間よりずいぶんはやい理由がわかり、なるほどと肩をすくめる。
原稿のことになると、いつだってこうだ。
プロの作家になっても彼女は、こうして無邪気に、まっすぐに、俺の元へやって来る。
そして誰よりも先に俺に彼女の物語を差し出してくれる。
俺はそれがとても、嬉しい。
今開ける、と答えて俺は手紙に封をした。
それを鞄に隠して腰を上げる。
っつーか、あいつも合鍵使えば入ってこれるだろうに。
なにやってんだか。
ふっと息を吐き出して、俺は今日の1日を考える。
新刊を持って来てくれたなら、とりあえずはそれを読もう。
今日はいつもよりちょっといい店を彼女には内緒で予約しているから、晩にはそこへ連れて行き、新刊の感想を告げる。
ああ、あの手紙と失くしてしまいそうな小さなリングケースは、いったいいつ頃渡そうか。
一世一代のイベントを目前にひとまず置いておく。
扉を開けた先の彼女の笑みに向かって、俺も頰を緩めた。