どーも、とにぶい反応に内心首を傾げつつ彼の前にずっしりと重い紙を積む。
1番上の紙に書いてあるのは、タイトル。
『恋文参考書』だ。
それを目にして、章は何度かまばたきを繰り返す。
予想外と語る表情をそのままあたしに向ける。
息をほどくように、あたしは笑った。
「あたしと君の、恋を描いたよ」
薫先輩との物語が書けなくて、代わりに書き出したあたしとの物語。
結末だけがない未完成のまま、お蔵入りするはずだったのに、世の中なにが起こるかわからないものだね。
昨日の夜、ひっそりとあたしは書き上げたんだ。
あたしたちの手元にあるのは、君と作った恋文の書き方を記した参考書。
薫先輩への恋を叶えるために作ったけど、あれはあたしの恋文で。
……きっと君の恋文でもあったね。
「ねぇ、読んでくれる?」
「……ああ」
恋人らしくない、あたしの恋人。
だけどあたしたちは、これからだ。
今だって以前とは違うから、ちゃんと恋人らしくなっていける。
少なくともこうやって1番に原稿を見せるのは、章だって決めたよ。
ふたりで作った恋文参考書。
これを元に、いつかまた、君にラブレターを書こう。
うまく書けそうにないなら、恋文だって構わない。
きっとあたしたちなら、その文章にこめた想いをちゃんと受け取ることができる。
ラブレターを出したら、その返信はいつでもいい。
だってこれからはずっと隣にいるんだから。