1駅で電車を降り、ホームのベンチに座って足元を見つめていたあたしの視界に大きなスニーカーが映りこむ。

見慣れたそれの薄汚れた色が、まるで模様みたいだ。

ぱたりと1度だけ、自分のローファーを揺らした。



「今度また、あたしと一緒にどこかへ出かけてくれる?」

「ああ」

「原稿を書くの、忘れてたら付き合ってくれる?」

「ああ」

「放課後は図書室で待ち合わせだよ?」

「ああ」



うつむいたまま好き勝手言うあたしに文句を言わず、章は全てを受け入れてくれる。

そんな知らなかった章の新たな一面を知って、弾む心臓を押さえつけた。



あたしの視界に入るようにと章は長い足をたたんで、その場にしゃがみこむ。

のぞきこむようにあたしの瞳に映る。



「今度は俺が、お前に教える」



なに、それ。

ラブレターの書き方なんて教えてもらわなくたって、自分で習得しちゃったよ。

そう思って言葉なくじっと見つめた。



「俺が恋を教えるから。
だから……俺の隣に、いればいい」



恥ずかしさを誤魔化すために、章が顔をしかめる。

柄の悪い、不機嫌そうな表情。

だけどあたしはこわくないから、どれだけ勇気を出してくれたのかがわかるから。



「……うん」



こくりとひとつ、頷いた。



彼の手を掴み、掌に形のない手紙を残す。

指先でそっと文字を書く。



『すき』



章は「俺も」と耳まで赤くしながら、幼い子どものように無邪気に笑った。