ああ、あいつはなんてやつだ。

あんなに恋しく想っていた薫へのこの心、日生は塗り替えてしまった。



彼女の背を追い、彼女の言葉を胸に落とし、過ごしていた1年と少し。

この短くも長い時間の中で、ゆっくりと育っていった感情。



本なんて似合わないとか、夢見がちかよとか、何度も言われている場面を見かけたけど、なにを言われたってぶれない。

小説を書くことを隠さず、恥じない、凛とした君のことを、────いつの間にか好きだった。



泣きたくなるような、笑いたくなるような、反する感情に苛まれてくしゃりと顔を歪めた。

髪に触れていた薫の手を掴み、顔の前に下ろす。

されるがままの彼女に向かって、するりと想いを口にした。



「俺、ずっと薫のことが好きだったんだ」

「知っているわ」

「本当に。好きだったんだ……」



左手の中の手紙をポケットに戻す。

渡すことができずにいたプレゼントを彼女に差し出した。



「誕生日、おめでとう」



どうか元気でと小さく囁いた。

ラブレターは、渡さなかった。



はじめての恋と、薫への想いと決別した今。

現金だろうか。

……俺は日生に会いたいと思った。



今までずっと薫とのことを応援してくれていた彼女にはあわせる顔がない。

どんな言葉を、態度を向けられるのか、恐ろしい。

それでも、今度は俺は俺のまま、なにも誤魔化すことなく向きあうから。



素直になること、ほんの少しの勇気、ラブレターの書き方。

君に教わったこと全部で、俺は君に好きだと言いたい。