呆然としていると、扉が開く。
お待たせ、と言って部屋に戻って来た薫と目があった。
彼女は瞳を大きく開き、ゆっくりと机にポットやカップを置く。
穏やかな表情で俺の前に立った。
「ねぇ、章」
名前を呼んで、顔をのぞきこんで、静かな瞳で俺を見つめる。
淡々としていながらどこか優しい視線が眩しい。
「章は私のこと、好きだったでしょう」
「っ!」
突然の爆弾投下に声を失う。
俺の好意を知られていたという事実に動揺を隠せない。
返す言葉の見つからない俺に包みこむよう慈愛に満ちた視線を向けて、手を伸ばす。
優しく俺の髪をくしゃりとかき混ぜて、でも……と細く呟いた。
その続きを吞みこんで、彼女は言う。
「私も好きだったわ。
章と和葉、まるで弟みたいに可愛かった」
俺の中にあった想いとは似ても似つかない薫の言葉。
だけど不思議だ、今の俺の想いとはどこか似ている気がする。
だけどついこの前まで抱いていた想い。
うそじゃなかった。
あれは確かに……恋だった。
だけど、共に文具店に行った日の姿を、原稿をする真剣な横顔を、俺を見て屈託なく笑う表情を。
日生を胸から追い出せねぇんだ。