「でも手紙なら、いつもより素直になれた。
俺はすごいことを教わったんだって思う」
普段なら言えないこと、誤魔化してしまう気持ち。
章の手紙は少しずつ、少しずつ、正直になっていった。
彼の本当の心が現れていくようになった。
その証拠が、軌跡が、目の前に積み上がっている。
彼の変化に立ち会えたことが嬉しいよ。
「俺にラブレターの書き方を。
……いや、それより前に、手紙の書き方か」
「うん?」
「教えてくれて、ありがとう」
透きとおるような、黒い瞳。
とても綺麗なそれがあたしを写し、胸を貫いた。
あたしは君に好きとは言えなかった。
君の中に残るあたしなどいないと思っていた。
だけどこう言ってもらえて、文字を扱う者として、こんな幸せなことってないね。
涙がにじみそうになるのを、誤魔化す。
きゅっと眉間にしわが寄る。
何度も深呼吸をして、そしてゆっくりと笑みを浮かべた。
もう共に過ごす時間がなくなるのだとしても構わない。
こんなにも素敵な言葉をもらえたあたしを、あたしは誇りに思う。
「章の手で書いた手紙はメールとは違う。
想いがこめられたそれはきっと、君を幸せに導いてくれるよ」
そう言ってあたしは章とふたり、図書室を出た。
ひんやりと冷たい空気が頰をくすぐって、頑張ってねとその場で別れた。
彼の恋のための道へ、送り出す。
そしてあたしの初恋は想いを届けることも叶わず、終わりを迎えた。