「これはね、義理チョコだよ。章にあげる」
「……」
遠慮すんなってー、と彼にずい、と寄せる。
へらりと笑う。
「今後はあたしも恋愛ものに挑戦していくわけだし? バレンタインに参加してみたかったんだ。章はその練習台ってわけ」
勝手にごめんねー、と言えば「お前って原稿のことばっかだな」と呆れたように肩をすくめた。
そしてそういうことならとチョコレートを手にした。
ほうっと息が抜けた。
「ほら、あたしの人生で! 初の!
バレンタインなんてどうでもいいから」
「主張すげぇな」
「いやいや、そんなまさか。
いいからはやく手紙にシール貼って封をしちゃおう」
冗談を口にしながら彼を促し、便箋が封筒に入れられる。
のりづけ、そしてシールを貼って出来上がり。
それを手にした章がちらりとあたしに目をやる。
「手紙ってすげぇな」
「なに、急に」
しみじみと口にする彼は封筒に視線を戻し、ぼんやりとする。
唐突な言葉の意味がわからず、あたしは首を傾げた。
「俺は、いつもうまく人と話せない。
接することが苦手だ」
それは、否定することはできない事実だ。
言葉や見た目、様々な要素から勘違いされてばかり。
それで余計に尖った態度を取ってしまい、人との距離が開く。
章の生き方は不器用すぎて、いつだって心配になる。