首をふるりと横に振り、余計な感情をふるい落とす。
なにごともなかったかのように、あたしはリュックから取り出したものを章に差し出した。
「……なんだよ」
「ラブレターには、ハートのシールがないとね」
それは、ふたりで文具店に行った時に買っておいたハートのシール。
1度も使っていないどころか、中身をビニールから出したこともない。
それもそのはず、これははじめからこの時のために用意していたんだ。
章がラブレターを書き上げた時、渡そうと思って。
「これはあたしからのプレゼント。
まぁ、いわゆる餞別だね」
思いもよらないことだったのか、章がわずかに戸惑っている。
受け取るべきかと悩んでいる掌にそれを握らせる。
「……うまく、いけばいいね」
なんて、その言葉は本当でありうそでもあった。
章が幸せだといい、君の恋が叶えばいい。そう思う。
思うのに、ふられてしまえば、誰かの物になることがなければいいとも……願ってしまう。
浅ましい、醜い、汚れた恋心だ。
そんな心がこめられたどろりと甘く苦いものをリュックの中にまだ秘めているあたしは、それを自分で抱えることにもう耐えられそうにない。
今日は奇しくもバレンタイン。
ふみと勇気を出そうかと約束した日。
あたしと章の関係が終わりを迎える日と重なるなんて、間に合ったと喜ぶべきかいっそうのこと過ぎていればよかったと落胆するべきか。
……自分の気持ちなのに、わからないや。