緑、赤、黄色に茶色。
弁当箱の中に敷きつめられた色を視界に入れてぼんやりとしていたあたしは、目の前でひらひらと揺れる肌色にはっとする。
それは、一緒にお昼を食べていた、詩乃の掌だった。
「彩、大丈夫?」
珍しく恐る恐る、といったふうに詩乃が言葉にする。
うかがうような仕草にどうして? と問いかけた。
「だってなんだか元気ない」
「……」
否定することができない内容に、どうしたものかと考える。
箸の先でトマトを転がす。
目に見えてわかるほど、今のあたしはいつものあたしとは違うんだね。
いやだなぁ、こんな気持ち、隠していたかったのに。
あたしが望むあたしでありたかったのに。
「なにかあったなら、彩はなんでもいい。
とにかく小説を書いたらいい」
それだけできっとなんとかなる、なんて夢物語。
普段の詩乃なら口にすることがないと思われる言葉に、なぐさめに、胸が疼いた。
優しいね。
ありがとうね。
でも……もうだめなんだよ。
そんなんじゃ誤魔化せない。
あたしは、あたしたちは、そういう段階まで来てしまった。
ぷすりと真っ赤なトマトに箸を突き立てる。
眉を下げて、くしゃりと顔を歪めて、あたしは笑った。
幸せな時間は、もう。