ほら、図らずも〝ラブレター参考書〟じゃなくて〝恋文参考書〟だし。
おかしなところはないでしょう?
なんてばかみたいなことを考えた。
そっとリュックの肩紐の部分に掌を滑らせる。
直接手が触れたわけではないけど、まるでそっと恋文参考書を撫でるように優しい手つきで。
この恋文参考書に綴ったのは、章がラブレターを書くための練習だ。
薫先輩のことを、薫先輩のために、形にして埋めていって。
私自身の想いなんてひとつも書かれていない。
だからこそ、だからね、恋文だと思うの。
はあっと息を吐き出す。
周りの人の想いで熱気のこもったこの売り場では、白くあたしの想いが形を持つことはない。
あたしの恋心は、しっかりと封をした。
のりでぴたりと閉じたものから感情がもれることはない。
そうだなぁ、これは、出せないラブレターだ。
なんだ、恋文もラブレターも、あたしちゃんと持っていたんだ。書いたんだ。
不思議と誇らしいような、それでいてしょっぱい気分でいっぱいになる。
こんなにチョコレートの甘い香りがするところにいるのにね。
胸元のブラウスをグレーチェックのベストごと掴む。
その力強さに反する、情けない表情で天井を見上げた。
出すだけなのに、それは許されない。
想いをこめておきながら、出すことはできないラブレターなんて。
恋文とラブレターも、この胸の中で叫んでいる心も、……どうしたらいいのかなぁ。