現代、ファンタジーと舞台を変えても、すべての作品をとおして彼女が描いているのはいつだって恋。
叶う、叶わない、禁断の、初々しい、と幅広い恋がふみの世界にはある。
「一条に伝わるといいね」
「っ!」
こくん、とひとつ頷くふみは誤魔化すように目を伏せて、和風のチョコレートを手に取った。
その様子を眩しいなぁと思い目を細めていたあたしは、改めてふみの言葉を口の中で繰り返す。
『私にとって、部誌が恋文です』
ラブレターじゃなくて、恋文。
意味は同じはずなのに、なんでかラブレターは相手に想いを届けるための直接的なものというイメージが強い。
それに対して恋文は、ちょっぴり誤魔化して、隠して。
古い言葉のその響きはラブレターと言うよりもずっと奥ゆかしい印象を受ける。
言葉の中に秘めた感情の濃い色が、恋色が、目に浮かぶようだ。
そうだね。
ラブレターじゃなくて、恋文なら。
あたしだって書いたことがあるよ。
ふみの恋文はあたしたちで作る部誌だと言う。
それなら、あたしにとっての恋文は、リュックの中に入っている1冊のノート。
────恋文参考書だ。