多くの生徒が部活や塾へと向かう中、教室に残り続けてしばらく。
今日もまた、あたしと金井は放課後に顔をつきあわせていた。
3日前と違うのは、腰を据えて話をしようとしているところかな。
「誰もいねぇし、もういいだろ?」
自分の席に座るあたしと、そのひとつ前の席に座る金井。
そんな言葉で話を促し、椅子を横に向けて浅く腰かけている。
ちらりと視線を送る仕草はそりゃもう偉そうだ。
ヤンキー相手だということは忘れようとは思っていたんだけど、これ、大丈夫かなぁ。
うまくやっていけるのか、少し不安になる態度だよね。
とはいえ、引き受けたことは本当だし、金井だって確かに交換条件をのんだし。
これでもちゃんと対策を考えてきたんだよ。
「昨日も言ったように、あたしはラブレターの書き方なんて知らないんだよね。
ついでに言えば勉強みたいに教科書があるわけじゃないし」
「ああ」
「でも、ないなら作ればいいじゃない!」
「……は?」
眉をひそめる金井としっかり目をあわせたまま、彼の様子は気にもとめず、ふふんと笑ってみせる。
そして鞄の中から取り出したものを机の上に置いた。
それは、5冊組で売られているノート。
表紙はピンク色で、なんの変哲もないものだ。
本来なら科目名を書くところに、あたしはまったく別のものを油性ペンで書いている。
〝恋文参考書〟と。