「じゃあこうしましょう。
彩もふみと一緒にチョコを選べばいいの」
「ちょっと、詩乃⁈」
後ろで黙ってたたずんでいたはずの彼女の言葉に、慌てて振り向く。
なんてことを言っているの。
焦るあたしとは対極に、飄々としたいつもどおりの表情に腹が立つ。
「彩先輩って好きな人いたんですか⁈」
「いやぁ、その……」
ええい、どうしてくれる。
ふみからいい反応いただいてしまったじゃないの。
それに、今は時間を共にすることが多いあたしと章だけど、それは期間限定のこと。
彼が薫先輩へのラブレターを書き上げるまでの関係だ。
11月の半ばから共に過ごしているから、今のような生活はもう少しで3ヶ月になるけど、もうすぐ終わる。
章の手紙はずいぶんとよくなったし、もうすぐ本番のラブレターを書くことになるだろう。
内容が決まってしまえば、レターセットなんかの必需品はそろっているんだもん。
もう必要とする準備は済んでいる。
近々迎えるであろうその日のことを考えれば、背中を汗が静かに伝う。
なんとも言いがたい感情が胸を襲った。
「彩がふみに言ったことは自分にも当てはまること、気づいていないの?」
「それは……」
そっと目をそらす。
汚れたローファーを眺めて、気をそらそうとするもできない。
『渡せなくても、大切な人のために選ぶのって、きっと楽しいよ』
ああそうだね、本当だ。
あたしのふみへ向けた言葉は、一緒だね。