一昨日の金井の手紙は勘違いさせてしまうような書き方で、どきどきを返せ! って思ったし正直がっかりしたけど、でもいいよ。

あたしは別に金井に恋をしていたわけじゃないから。



「あたし、ラブレターの書き方なんて知らないけど、一緒に考えてもいいよ」

「……まじ?」



うつむくように、うん、とひとつ頷いてみせる。

そして床の木目を視界に入れたまま、間髪入れず「でも条件がある」と続けた。



「金井と薫先輩の恋を元に小説を書かせてくれるなら、手伝う」



これは賭けだ。

モデルにさせろという条件を金井がのむとは思えない。

だけどそれはあたしが今1番欲していることだから、妥協なんてしないよ。



金井は黙りこんでしまい、返事がない。

この距離だもん、聞こえていないはずがないから拒絶か怒りか……。

そう考えて、気分が沈みそうになった時、彼は空気を震わせた。



「……わかった。それでいい」



袖をつかんでいた手に力がこもる。

恐ろしくて向けられなかった顔を、勢いよく下から覗きこむようにして見上げる。



「本当⁈」

「ああ」



やった、やった、やった!

言質取ったよ、うそじゃないって!



こみ上げる衝動に身体はふるりと震える。

瞬く間に瞳が輝き、表情が明るくなったことが自分でもわかった。



今度は袖なんかじゃなくて直接、金井の右手を両手でしっかりとつかむ。

驚いて腕を引いた彼を離したりしない。



あたしは今、確信した。

ふたりなら、いい手紙といい作品を書ける。

理由なんてないけど大丈夫だって。



「これからよろしくね!」



にっこりと笑ったあたしに、金井はどんな表情をすればいいかと困ったように顔をしかめていた。