窓から見下ろせるグラウンドには、ひとつ年上の、3年生のクラスが体育をしている。

ふせた瞳に、まつげの影の深いこと。

そこにいる薫先輩のことを黙って見つめているんだろう、金井。



その表情があまりにも、あまりにも綺麗で。

切なげな表情は儚く、いつも強そうだと思っていた彼の思いもしなかった姿に胸がざわめいた。



柔らかな太陽の光を吸いこんだ、金井の立ち姿は絵になる光景だ。

そのことで、フライパンのうえのバターのように、とけるような、焦げつくような感情にせっつかれた。

鳴り響くチャイムに紛れるように、言葉はほろりとこぼれる。



「……書きたいなぁ」



あたし、この人の見る世界を、言葉にしたい。



かき消されなかったらしい言葉に反応して、あたしの存在に気がついた金井が目を見開いて瞳に映す。

少し苦々しげに表情を歪め、そのままあたしの隣を通り抜けて教室から立ち去ろうとする。

その袖を、離さないように強くつかんだ。



「待って」



これは衝動的な行動だ。

ついさっきまではありえないと思っていたのに、そんな気なんてなかったのに。



なのに、わかる。逃しちゃいけない。

その気持ちのまま、文章を綴らないともったいない。



もし文字にしたら、そうしたらきっと、今までとは違う世界が描けるはずだ。