「彩はどうするの? 告白は?」
詩乃の問いに、唇からあたたかな息をもらした。
ふっと空気が抜けて、力なく首を横に振る。
「言わない」
この気持ちは言わないで、章が幸せになるまで……ううん、その先もずっと。
隠し通してみせる。
だってきっとあたしのこの想いを知ってしまったら、章は困る。
なんだかんだであいつ、優しいからね。
きっとあたしに気を遣ってしまうはずだ。
章は自分の恋を叶えるために努力しているのに。
恥ずかしいことも、苦手なことも、頑張って頑張って、必死なのに。
惑わせたくない。
揺らがせたくない。
……ごめんなんて、言われたくない。
そのためには応えられないと、勘づかれてしまうような失敗は許されないんだ。
こんなふうに心を震わせるあたしなんて、いやだよ。
やりたいことをやる、正直なあたしでいたい。
心から、章のためを想いたい。
だから彼の話を聞いて、物語にする。
書き終えてその話を応募すれば、この恋は終わりを迎える。
それで、……いいの。
だってあたしは章が薫先輩に告白するための協力者でしかないから。
その道を、あの日自分で選んだんだから。
誰よりもはやく、近く、章が話をしてくれる存在でいられるだけで。
……それだけで十分すぎるくらい、あたしは恵まれているんだ。