今まで読んできた小説の中、たくさんの恋が描かれていて、甘く優しいだけが恋じゃないと知っていたけど。
だけど少女たちの言葉を、身を以て思い知る。
なんて、なんて恋は難しい。
あたしには扱えないと思う。
薫先輩を思う姿が切なく、そのくせ頰を赤くするところが愛おしい。
叶わない想いを抱えることは苦しくて、だけどそばにいるだけで幸せな。
そんな、恋なんて知らない方がきっと、幸せだった。
ふっと視線を落とせば、あたしが書いた文章が広がる。
書きやすいようにきっちりと等間隔で印のついているルーズリーフにひとつずつ文字を刻んで、いつかあたしはここに章の恋を描くんだ。
だけど、……できるのかなぁ。
恋を知ったあたしは、以前のようにはいられなくなってしまった。
章から薫先輩の話を聞いて、彼の予想外の可愛さを素直に満喫することはない。
章の表情ひとつひとつを心に刻んで、薫先輩の存在に胸が軋んでしまう。
だけど、嫌いだとは思えない。
だって薫先輩はなにも悪くない。
あたしにだって声をかけてくれて、優しくて、しっかりしていて理想の人。
みんなの憧れ……あたしだって、憧れている。
不器用な章にとって、彼女は唯一の人だ。
大切な人にとって大切な存在は、あたしだって大好きだって胸を張って言いたいよ。
それでも、羨ましい、なんて浅ましい感情を抱いてしまうことも本当なんだ。
まっすぐに、大切にしたいだけなのにね。
恋をしていた少女たちの悩みが、ようやくあたしにも理解できたことを喜ぶべきかわからない。