初々しく、絶妙な距離を保つふみたちの背中が視界でちらつく。

さっきの一条も抱き締めたらいいという、あたしの言葉を気にしてか、そわそわとしているふみがなんとも言えず可愛らしい。



せっかく久しぶりに会ったのになぁ。

まぁ、締め切りに間に合っていないあたしが悪いんだけど。



今書いているのは、男装女子が攫われた姫を助けに行く勇者に選ばれてしまった、というコメディだ。

この前、章に面白かったと褒めてもらったから、調子に乗ってまた戦う女の子を主人公にしてみて。

それに今は楽しいばかりの物語を描きたい気分だから、この話になった。



これは以前からあたためていたネタで、ストックがあってよかったと一安心しているんだ。

締め切りを過ぎているのに新しいネタを用意する暇なんてないからね。



これ以上詩乃に注意されることがないよう、黙々と作業を進める。

ここ最近ずっと過ごしていた図書室と比べると、寒いと思っていた部室がずいぶんあたたかく感じる。

緊張感も相まって、筆が進んでいた、その時。



「それで?」



あたしの隣で見張っていた詩乃が頬杖をつきながら、話をうながしている。

だけどなんの話なのか、あたしにはちっともわからない。



詩乃はなにを聞きたがっているの?