「あたし!」



大きな声を出し、慌てて彼にそれを投げかける。

覗きこむようにして、見開かれた瞳に大きく映る。



「あたし、平気だよ!
章の言葉がきついことなんて、気にしないから!」



しばしの間、固まっていた章は、氷が溶けるように笑った。

くしゃり、と表情が歪んで、いつもの鋭さが抜け落ちた柔らかな表情をしている。



「……ふはっ、うん。お前はそんな感じだな」



わかっているから、そんな必死にならなくていい。

あたしにそう言った章に胸が熱くなる。

心臓がおかしくなってしまったんじゃないかと思うほど息苦しくて、そのくせきゅうと甘く絞られる。



……ああ、そっか。

ふいにわかってしまった。

彼の言葉が、態度が、全てが、あたしの中で響いている理由を知ってしまった。



それはとても不思議な感覚がした。

今の今まで無縁だったはずなのに、自然とその感情をすとんと理解する。



だけど気づいた瞬間に粉々に砕かれる運命の、この心。

なんて虚しい……、なんて苦しい。



あたしはきっとあの日、章のラブレターを書く手伝いをすることを決めた教室で。

章が薫先輩を見つめる姿に、不器用に恋をしている章に、────恋をしたんだ。