それは、前回の部誌に載せた作品のこと。
男勝りな姫と何人かの騎士で、旅に出る話。
雰囲気は青春ファンタジー……といったところかなぁ。
あたしはネットのケータイ小説投稿サイトでも活動しているし、そこで感想を言ってもらったことならある。
交流して、とても嬉しかった思いがはっきりと胸の中に残っている。
部誌のための作品は丁寧に書き上げたとはいえ、まさかこんな手紙をもらう日がくるなんて。
まるでこれはファンレター。
言葉選びから、ツンデレターだ。
生まれてはじめてもらった、とびきり特別な言葉のつめこまれたルーズリーフは、あたしにとって他とは比べものにならないほど大切になる。
息をするだけでどきどきして、言葉が頭を甘く溶かしてしまいそう。
まじまじと見つめ、何度も文章を目で追う。
そうしていると、そっと章が唇を開いた。
「俺は、今と違って昔は本が嫌いだったんだ」
「そうなんだ?」
彼の言葉に思わず顔を上げる。
「母親が編集者でさ、本のことばっかで。
本を読む楽しさもわかんないし、嫌でたまんなかった」
幼い子どもにとっての母親は世界のすべてだ。
共にあることが当然で、愛情で包まれてぬくもりに満たされるはず。
それが叶わないことは、さみしかったことだろう。