「それに、書かなくちゃいけない原稿があるし……」



周りに聞こえないほどの声を口の中で転がす。



あたしは文芸部として、年に5作品短編を書いている。

そしてそれだけでなく、ネットのケータイ小説投稿サイト・ラズベリーにて活動中の身なんだ。

そっちでは短編だけじゃなくて長編も載せている。



趣味の範囲だし少数だけど、あたしの作品を読んでくれる人が確かにいる。

だから更新ペースを落としたくないし、なにより今はサイトで『手紙』をテーマに作品を募集している。

それに応募したいから、関係ないことに割いてる時間なんてあたしには1秒だってない。



作品の内容を考えて、プロットを書いて、実際に執筆して修正。

まだまだこれからだし、いつだってあたしは作業に追われているんだよね。



クラスメートを怒らせたままはいやだ。

申し訳ないとも思う、けど……。



起きる気配の見られない金井の背中に向けて、あたしはパンッと勝手に手をあわせた。

ちなみに隣の席の人はびくりとしたけどあたしの奇行には慣れっこだからつっこまれない。

それをいいことに心の内で叫ぶ。



金井には悪いけど引き受けられません!

もう1度頼まれたりしたら面倒だから謝りもしません!

っていうか自分から声をかけたら刺されそうだからね!



ああ、あたしって最低だなぁ。

自分の非を認めていながらなんの行動もしないなんてクズ、なんというクズなんだ。



自己嫌悪におちいり顔を歪める。

でも譲れないものがあるから、とあたしは唇をただ噛み締めるだけに抑えた。