ドイツのレストランでは、相席が当たり前だ。
私たちの姿を見た、ビールで既にほどよくご機嫌なおじさんは、少しだけ席をつめてくれた。
アキと向かい合わせで座る。
「Danke schön(ダンケシェーン)」
隣のおじさんに、私の覚えた数少ないドイツ語を披露すると、おじさんはまた満面の笑みを返してくれた。
何にも注文してないのに、席に着くや否や、目の前にグラスが用意されて、驚いてアキを見た。
格子の切り込みが入ったグラスに、琥珀色の液体が満たされている。
「ザクセンハウゼンは、りんご酒の産地なんだ。俺は、あんまり好きじゃないけど、まずは一杯飲んどかないとな」
そう言ってグラスを持ち上げたので、私もそれに合わせてグラスを持ち上げた。
向かいに座ったアキは、私の目を見つめて口元だけで“乾杯”と言っている。
周りがうるさすぎて声は聞こえないのに、アキの瞳に見つめられるだけで、私の心臓は今までにないほど、ドキドキが止まらなくなってしまうんだ。
少し口をつけると酸味があって軽い飲み心地、アキは好きではないと言っていたけど、これが驚くほど美味しかった。
続けて、二口、三口と喉を潤す。