「ちょっと、待ってーなー!」


そう言って追いかけてくるジュンを振り切り、改札をくぐって、振り返った。

わざとらしくオーバーに肩を落としたジュンの姿が目に入って、思わず笑いがこみ上げてきた。


「ジュン、またねー!」


そう言って、ありったけの笑顔で手を振り、普段の私じゃ考えられなくらい、大きな声で叫ぶ。


「おう、またな、レイ。いい旅を!」


そう言って、ジュンも満面の笑顔で、手を振ってくれてた。

時計を見ると、発車まであと5分。

名残惜しさは尽きないけれど、私は笑顔のままジュンと別れ、ホームへと駆け込んだ。

ギリギリで列車に乗り込み、自分の席に着いた途端、何故か涙がこぼれてきたんだ。

リリィの時もそうだったけど、こんなに別れが悲しいなんて。

母に捨てられたあの日から、私はずっと一人だと思ってた。

人と関わることを極端に避けてたから、誰かと別れることがこんなに辛いなんて、忘れていたのかもしれない。



でもね、この胸の痛みは、なぜか心地よくもあったんだ。

悲しいだけじゃない、辛いだけじゃない。

リリィやジュンとの別れが教えてくれた、この胸の高揚感

それは別れの向こうは、暗闇なんかじゃなく、真っ白い光が溢れる新しい世界だと二人が教えてくれたから―――



薄暗いホームから滑り出た列車は、瞬く間に明るい太陽の下を走り始めた。

その先にあるのは、まだ見ぬ新しい街と新しい出会いだろうか……

私は、車窓の風景を眺めながら、涙を拭い、ドイツへと思いを馳せた。