「ジュンは、プロを目指してるの?」
さっきジュンが稼いだお金で、ビアパブで乾杯したところだ。
ここは、ハイネケン発祥の地
オランダには、500種類の地ビールがある、というから驚きだ。
ジュンが「これが美味しいねんで」って言うから、同じものを注文した。
濃褐色で少し甘みのあるビール、リンデボーム社のオウド・ブルインだ。
「あぁ、仕事の後の一杯は最高や!」
ジュンは、グラスの半分ほどを、一気に流し込んだ。
さっき“プロ”って言葉を聞いた瞬間、今まで笑顔しか見せなかったジュンの表情が、一瞬曇って、私はその答えを催促できないでいた。
私もビールを二口ほど飲み、ジュンの次の言葉を、静かに待った。
「俺な、歌にはめっちゃ自信あんねんなぁ」
ジュンは、傍らに置かれたギターケースを眺めながら、少し真剣な表情でそう言った。
「さっきのジュン、別人かと思ったよ。」
私が、なるべく冗談っぽく言うと、「そりゃどういう意味やねん」って、いつものジュンで返してくれた。
でも、その表情は、やはり翳っているような気がする。
私は、そのことには触れてはいけないような気がして、当たり障りのない話題を探してみるけど、ジュンのように言葉が次から次へとは、出てこなかったんだ。