「あ、この曲知ってる!」
ジュンが歌い始めたのは、BIGINの“恋しくて”だった。
その歌声は。喋りとは真逆の落ち着いたトーンで、甘く痺れる感じ。
今までのイメージとは全然違うのに、切ないブルースが、ジュンの声に絶妙にマッチしてて、私は思わず聴き入ってしまった。
階段の五段目の所に座って歌うジュン
二段目に向き合うように座る私
初めは観客なんていなかったのに、曲が終わる頃には、20人程の人だかりが出来ていた。
私以外に、日本人は見当たらない。
みんな歌詞の意味なんて分らないだろうに、ジュンの歌に耳をすまし、その歌声に、一様に感動している様子だった。
曲が終わると、どこからともなく『ブラボー!』の歓声や拍手が沸き起こった。
私も、魂を抜かれたように聴き入ってたけど、ふとジュンと目が合うと「俺に惚れんなよ」なんて冗談っぽく言うもんんだから、思わず二人で目を見合わせて笑った。
気付くと、ギターケースにお金を放り込んでくれる人までいる。
ジュンは、それに大袈裟にお礼をしながら「これで乾杯できそうやな」って笑った。