「本当はあたしさ、失恋したから旅に出たの」
「え?」
「こんなこと、カッコ悪くて誰にも言ってないけどね。あたしもあんたと一緒だよ。一人になりたかったんだ。何もかもが嫌になってさ。『もう死んでやる』なんて馬鹿なことも思ったけど、所詮あたしには、そんなこと出来る勇気もなくて。それで逃げ出すように出てきた」
「うん」
私も、リリィと同じく前を見据えたまま、その言葉を静かに聞いていた。
「でも、一人になりたい、とか言っても、結局寂しくてさ、南仏、スペインって回ってきたけど、もう帰りたくて帰りたくて。情けないでしょ」
「ううん」
「自分がこんな情けない人間だってことにも、ほとほと呆れてたとこよ。そこに、あんたと出くわして、ホッとした。それなのに、あんたに昨日、ガツンと言われたでしょ。もう悲しくってさー。でも、本当なんだよ。あたしなんて、口先だけ。小説もたくさん投稿はしてるけど、全然ぱっとしないし、向いてないんだろうなぁって思ってさ。でも、今日はヨーロッパに来て一番楽しい一日だった。こんなに楽しい旅が出来るなんて、思ってなかったよ。ありがとう、レイ」
私も、胸がいっぱいになった。
彼女は、なんでこんなにも素直に、言葉を紡ぎだすことができるのだろう、と羨ましくも思った。
人目を憚らずに泣いたり、叫んだり―――
私には出来ないことを、彼女は感情のままにしてしまうんだ。
そんなリリィが、私にはやっぱり眩しかった。