「昨日はゴメン。言い過ぎた」
「え?」
「本当は、あたしの才能なんて、大したことないのよ。自分でも良くわかってる。でもさ、夢を語るのは自由でしょ?だから、許してよね」
そう言うリリィの顔が少し切なくて、私はなんだか、胸を締め付けられるような思いだったんだ。
「私のほうこそごめん。リリィに言われたこと、本当だもの。私には夢なんてないから。リリィが羨ましかった。ただの八つ当たり。私の方が最低だよ。ゴメン」
「あんたって本当に堅いわねー。夢なんてね、なんでもいいのよ、言ったもん勝ち!それに、そんなババクサイこと、言わないでよね。あたしたち、まだハタチだよ。夢なんて、これからいっくらでも出てくるんだからさ」
リリィはそう言って、まったくもう、と言わんばかりに、何処までも突き抜ける青空に、大きなため息を吐いた。
そして、私の顔をチラッと見ては、呆れたように笑ってた。
夢……か
考えもしなかったな。
大学3年になって、周りでは、冬にはやって来る就職活動の話題が、持ち上がるようになっていた。
私の周りの人たちと言えば『何がしたい』というよりは『いかに有名な企業に入れるか』それが目標のようだ。
かつてないほどの就職氷河期を迎えている今年は、求人倍率は限りなく一に等しいと言う。
来年は、一も切ってしまうかも……と、オリエンテーションか何かで聞かされたっけ。
そんな競争の中で、何も目標のない私が勝ち残っていけるのか、不安でならなかった。
「ちょっとーレイ。何恐い顔してんのよ」
「え?」
「さてと、ジッとしてるなんてもったいないわ。ここにはあたしたちを楽しませてくれるもんがごまんとあるんだから。さぁ、行くわよ!」
いつの間にかいつものリリィに戻ってた彼女は、私の手を引き、勢いよく塔を降りて行く。
まるで、夢へ向かって突き進むかのように、真っ直ぐに―――
私も必死に、そんなリリィの後を追いかけたんだ。